目黒駅近くのピアノバー

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2019年08月31日 [お客様の声]

会長とスモークサーモンカルパッチョ風

Cozy Piano Lounge でお会いする常連仲間のひとりに「会長」と呼ばれる紳士がいらっしゃいます。ボトルチャームの番号は2番で、僕の4番よりも早い。ちなみに1番はこのお店の大家さん。3番の方については昔ママさんに聞いたけれど、すっかりご無沙汰との事。果たしてお会いした事があっただろうか。全く印象がありません。

さてこの会長。確かに実際にある会社の会長職にあると記憶していますが、この渾名で周囲の常連仲間から親しみを込めて呼ばれているのは、それにふさわしい貫禄というか存在感を漂わせている方だからなのだと思います。GUCCIやドルチェ&ガッバーナやジャンニ・ヴェルサーチといった高級ブランドの服を着てふらっと現れる風情にはどこか凄みのようなものが漂っています。しかしだからと言って近寄りがたい訳でもなく、偉ぶる事や声を荒げる事も全くないとても気さくな方です。気さくなんだけれど人畜無害な好好爺という感じでもなく、誰かを茶化したりエッチな話をしたりするのが好きな愛嬌たっぷりな親戚のおじさんみたいな人です。

この会長が聞かせてくれる昔話が凄い。戦中のどさくさに紛れて生を受け戸籍の誕生日と本当の誕生日は違うという話。戦犯の子供として世間から白い眼で見られて苗字を変えるなど肩身の狭い思いをした事。靖国神社に近いおぼっちゃま学校で相当なやんちゃを仕出かした少年時代を経て、どういうコネがあったのか米国の士官学校だか兵学校だかに入学。その後帰国して誰もが知っている任侠映画のスターの付き人をして、自らも映画に出たり、レコードを発売したり。そして人気女優と結婚……とこのあたりになると、失礼ながら子供の頃に読んだ「ほら吹き男爵」とイメージを重ね合わせたくなってしまいます。

他にも横浜で有名なキャバレーを経営していた話や、バブルの頃に目黒駅西口の地上げをかなり手がけたという話。僕が中学生の頃、憧れていた某女性タレントと付き合っていたなんてエピソードを聞いた時は内心少し嫉妬しました。なんでも Cozyがオープンする前にあったお店にも通っていて、そこでその女性と喧嘩になって店の前でヒールを投げつけられたとか。そんな波乱万丈な経歴を面白おかしく話してくれる会長に、やっぱり色々経験しなきゃ人生楽しくないよなぁ。僕も色々経験して人生楽しまなきゃなぁ。なんて思ったり。

会長は気前のいい人です。隣で美味しいお酒を頂くことはしょっちゅう。お古のネクタイを10本も下さった事もありました。もっともそのネクタイはお下がりとは言え高級ブランドばかりなのですが、どことなくバブルの頃を彷彿をさせる古いデザインだったので、結局それを身につける事はありませんでした。そう言えば「すっぽんスープ」の缶も頂きました。賞味期限が3年前に切れていたので、これは会長特有の悪戯なのだろうか、なんて迷いつつも捨ててしまいました。もっとも最近になってカニ缶は賞味期限が切れ3年物が美味しいなんて話を耳にして、味見をすればよかったなんて後悔しましたけれど。

実はその会長、3年前に癌でお亡くなりになったのですが、今でも時々話題にのぼります。電気の配線の調子が悪いのか、時々 Cozy では店の天井の照明がひとつ急に消える事があります。そんな時は、

「あれ、淋しがりやの会長さん。今夜も来たのかな」

なんて思ったりもします。要するに今なお常連仲間なのです。お気付きでしょうか。僕がここまで会長の人となりをお亡くなりになった過去の人として、つまり過去形で書かなかったことを。

昨日もそんな夜でした。丁度オーナーの夏実ママのお誕生日で、常連仲間が集まったのですが、誕生日にはよくある「一年なんてあっという間だねえ」なんて話から昔話になり、自然な流れで会長の話題になりました。そこで会長がよく頼んでいた「スモークサーモンカルパッチョ風(サラダ仕立て)」を久しぶりに味わいました。(ホソイ)

SmokedSalmon

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